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ホルモン補充による凍結胚移植後の妊娠初期出血について

ホルモン補充療法(HRT)による凍結胚移植(FET)後の妊娠初期の出血について

Nielsen JM. Human Reproduction. 2023

不妊治療後の妊娠初期に出血があると、とても不安になる方が多いと思います。しかし、ホルモン補充療法(HRT)を用いた凍結胚移植(FET)後の妊娠では、出血が比較的よく見られることが分かっています。そのため、出血があったとしても、すぐに流産を心配する必要はない場合が多いです。

妊娠初期の出血はどれくらいの人に起こる?

これまでの研究によると、生殖補助医療(ART)を受けた後の妊娠では、妊娠初期に出血を経験する人の割合は 約2.1%から36.2% と幅があります。しかし、ホルモン補充療法を使った凍結胚移植(HRT-FET)を行った患者さんでは、約47%(ほぼ半数) の方が妊娠8週までに何らかの出血を経験していました。
この出血の多くは 少量の出血(「英語ではスポッティング」) であり、通常は1~2日程度で止まることがほとんどです。ただし、人によっては1週間以上続く場合もあります。

出血しても妊娠には影響がない?

「妊娠初期に出血すると流産しやすいのでは?」と心配されるかもしれません。しかし、今回の研究では、HRT-FET後の出血の有無は、12週以降の妊娠の継続や最終的な出産率に影響を与えない という結果が出ています。つまり、多少の出血があっても、その後の妊娠の経過や赤ちゃんの発育に問題がない可能性が高いのです。
一方で、一般的な妊娠初期の出血に関する他の研究では、出血が流産のリスクと関連する可能性があると報告されているものもあります。

なぜ出血が起こるの?

HRT-FET後に出血が起こる理由ははっきりとは分かっていませんが、以下のような可能性が考えられています。
  • ホルモン補充療法が子宮内膜の状態に影響を与える → HRTでは自分のホルモン分泌を抑えながら外からホルモンを補うため、自然な妊娠とは子宮内膜の状態が少し異なる可能性があります。
  • 胎盤ができる過程で出血しやすくなる → 妊娠が進むにつれて胎盤が形成されますが、その過程で子宮の血管が一時的に破れ、軽い出血を起こすことがあります。
  • 血清プロゲステロン値の低下 → 出血した患者さんは、胚移植時のプロゲステロンの値が少し低い傾向がありました。ただし、この違いは小さく、臨床的な意味はあまり大きくないと考えられています。

どんなときに病院に連絡すべき?

軽い出血はよくあることですが、次のような場合は医師に相談することをおすすめします。
・出血の量が多い(生理のようにしっかり出血する) ・ 出血が長期間(1週間以上)続く ・ 腹痛が強い、または生理痛とは異なる痛みがある ・ 発熱や強い体調不良を伴う
これらの症状がある場合、切迫流産やその他の異常の可能性も考えられるため、医師に相談しましょう。

まとめ

  • HRT-FET後の妊娠では、妊娠初期の出血は珍しくなく、約半数の患者さんに起こる。
  • ほとんどの場合、軽い出血であり、妊娠の継続や出産率には影響しないと考えられる。
  • 出血があると不安になるかもしれないが、すぐに流産と結びつける必要はない。
  • ただし、出血量が多い・痛みを伴う場合などは、念のため医師に相談することが大切。
 
個人的感想
やっとの思いで妊娠されたのに、突然出血が起こるとご心配になるのは当然です。私の外来でも多くの患者さんが出血がご心配で来院されます。今回の論文でホルモン補充周期による妊娠患者さんの約半分の方が出血を経験されるが多くの出血は妊娠の継続に影響しないとのデータは多くの同様の患者さんを勇気づけるものと考えます。
 
引用文献
Nielsen, J. M. (2023). Early pregnancy bleeding after assisted reproductive technology: A systematic review and secondary data analysis from 320 patients undergoing hormone replacement therapy frozen embryo transfer. Human Reproduction, 38(12), 2373–2381. https://doi.org/10.1093/humrep/dead218.PMID: 37897214
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