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卵胞は見えているのになぜ卵子が取れない?採卵の仕組みと空胞の真実

採卵は、体外受精の中でも特に緊張や負担がかかる大きな山場のひとつです。
多くの場合、ちゃんと卵子が取れますが、「卵胞は育っていたのに、卵子が取れなかった」ということも一定の割合で起こります。「えっ?卵胞が見えていたのに、なぜ取れないの?」と不安になってしまう方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、採卵のしくみと、卵子がうまく取れないことがある理由について、できるだけわかりやすくお話しします。

■ 卵子はどこで育つ?

卵子は「卵胞(らんぽう)」という袋の中で、袋の壁にぴったりくっついて育っています。
周りには小さな細胞たちが集まって、卵子を包みこむように守っています。
卵子は、そうした細胞から栄養やホルモンを受け取りながら、少しずつ成熟していきます。

■ 採卵直前に使う「トリガー」とは?

卵胞が十分に大きくなったら、採卵の2日前の夜に「トリガー」と呼ばれる薬(ブセレリン点鼻薬やhCG注射)を使います。この薬は、「排卵の準備を始めて!」という指令を卵子に送るものです。この指令を受けると、卵子のまわりの細胞たちがふくらみ、ぴったりくっついていた卵子は、壁からふわっと離れて、袋の中に浮かぶようになります。採卵はこの「浮かんだ瞬間」を狙って針で卵子を吸い取ります。

■ 時間が早すぎると、遅すぎると?

このトリガーの指令から採卵までが、ちょうどいい時間であることがとても大事です。
  • 早すぎると… 卵子はまだ壁にくっついたままで、吸引しても出てこなかったり、未熟な状態で出てきたりします。
  • 遅すぎると… 卵子はすでに排卵して袋の外に出てしまっていて、とることができません。
だからこそ、「採卵2日前のこの時間に薬を使ってください」と指示された時間を守ることがとても大切です。

■ トリガーの効き方には個人差があります

トリガーの効き方や効くタイミングには「個人差」があります。 体質や卵巣刺激法等によって違いがうまれます。例えば、お酒を飲んだときを想像してみてください。 同じ量を飲んでも、すぐに酔う人もいれば、全然平気な人もいますよね。 薬もそれと同じで、「効き方」や「効いてくるまでの時間」は人それぞれです。

■ 最適なタイミングを探します

一度の採卵でうまくいく方もいれば、結果を見ながら少しずつ調整が必要な方もいます。 採卵がうまくいかなかった場合でも、卵胞の育ち方やホルモンの反応を見ながら、あなたに合った最適なタイミングや方法を医師が一緒に探していきます。お酒も、何度か飲んでみるうちに「自分に合った量」が分かるように、トリガーの効き方にも「あなたに合ったベストなタイミング・方法」があります。

■Empty Follicle Syndrome(空胞症候群)

採卵を行っても卵胞が十分に育っていたにもかかわらず、まったく卵子が回収できない状態を、医学的に「Empty Follicle Syndrome(EFS)」と呼びます。多くの場合、排卵の指令となる“トリガー”の効果が不十分だったことが原因と考えられています。ただし、まれに卵胞の中にもともと卵子が存在しなかったというケースもあります。卵子は約0.1mmと非常に小さく、超音波では見ることができません。そのため、採卵してみないと卵子の有無は分からないのです。

・EFSが起こりやすい条件

EFSは、以下のような条件の方に比較的起こりやすいとされています:
  • 月経中のLH(黄体化ホルモン)値がもともと低い方
  • ピルを長期間使用していた方
  • 卵胞の発育に時間がかかった方
こうした条件があると、排卵を促すために使う**ブセレリン点鼻薬(GnRHアゴニスト)**が効きにくくなり、EFSのリスクが高まることがあります。
 
Reference
太田 邦明. (2024). いざ採卵へトリガーをかけてみよう.
岩瀬 明・平池 修・太田 邦明(編集)教えて!不妊治療の排卵誘発 ビジュアルガイド(pp. 20–25). 診断と治療社.
 
Hadas Ganer Herman, Horowitz E, Mizrachi Y, Farhi J, Raziel A, Weissman A.
Prediction, assessment, and management of suboptimal GnRH agonist trigger: a systematic review.
J Assist Reprod Genet. 2022 Feb;39(2):291–303. doi: 10.1007/s10815-021-02359-y.
PMID: 35306603, PMCID: PMC8956771
 
Inoue D, Sakakibara Y, Ishida C, Kondo M, Mizuno R, Saito M, Shibuya S, Hashiba Y, Asada Y.
Risk factors for empty follicle syndrome in assisted reproductive technology with gonadotropin-releasing hormone agonist trigger.
Reprod Med Biol. 2023 Dec 9;22(1):e12553. doi: 10.1002/rmb2.12553. PMID: 38076206
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