メニュー

精子は貯めると逆効果?妊娠率アップのカギは禁欲期間にあり  

◆精子は貯めた方がいいは逆効果?
排卵の時に精子がより多く届くように、射精しないで貯めておいた方がいいのではないか。昔はそう考える方が多くいました。しかし、最近の研究では、この「貯めすぎ」が、実はかえって妊娠しにくくなる原因になることが分かってきました。精子は、私たちの体の中で毎日、新しいものが作られています。まるで自動車工場で新しい車が次々に生産され、在庫を貯めこまずに定期的に出荷されていくようなイメージです。この循環がとても大切なのです。このページでは、① 精子がどのように作られるのか、② なぜ長く貯めすぎると良くないのか③ 妊娠を目指す上で「どのくらいの禁欲期間が良いのか」について、分かりやすくご説明します。
 

◆精子の作られ方を自動車生産にたとえると

精巣(せいそう)は、精子を生み出す「自動車工場」のような存在です。常に新しい“車”、つまり精子を製造し続けています。この工場の中には、精細管(せいさいかん)と呼ばれる、非常に細くて長い「生産ライン」がびっしりと張り巡らされています。この生産ラインでは、約74日かけて、しっぽのない未熟な細胞が、少しずつ変化しながら、しっぽを持つ“完成した形の精子へと、じっくりと組み立てられていきます。ただし、こうして精細管で作られたばかりの精子は、まだ泳ぐことも出来ず完全とは言えません。次のステップとして、精巣の隣にある精巣上体(せいそうじょうたい)という場所に送られます。

◆出荷前の準備・精巣上体は「試運転場」

精巣上体はちょうど、出荷前の「試運転場」のような役割を果たしています。精子たちはここで、泳ぐ力(運動能力)や、卵子を受精させる力を身につけるための最終調整を受けます。こうして準備が整った精子は、“完成車”として射精によって出荷されていくのです。つまり、精巣上体は、精巣で作られた未完成な精子を、受精可能な成熟精子へと仕上げ出荷の準備を整える重要な場所なのです。

◆禁欲期間が長すぎるとどうなるか?

完成した車(精子)を試運転場に長く置きっぱなしにしていたらどうなるでしょうか?雨風にさらされ、紫外線を浴び、車はサビついたりバッテリーの調子が悪くなったりします。精子も同じです。精巣上体に長くとどまっていると、活性酸素による酸化ストレスを受け、DNAに傷がついたり、動きが悪くなったりします。このように、禁欲期間が長すぎると、精子が劣化してしまい結果として受精や妊娠に悪影響を与えることがあるのです。ここ10年の間に、禁欲期間の延長が精子の酸化ストレス・DNA損傷・受精能力の低下につながることを示す研究が多数報告されています。

◆顕微授精(ICSI)における禁欲期間
ICSIでは、禁欲期間が短い方が精子の質が良くなることが、多くの研究で示されています。具体的には、禁欲期間を3日以内できれば1日程度にすることで、精子のDNAの損傷(DNA断片化)が少なくなり、妊娠率が高くなる傾向が報告されています。また、一部の研究では、1〜4時間程度の非常に短い間隔での精液採取でも、DNA損傷が少ないことが示されています。私が担当している患者さんで精液所見が特に悪い場合には、採卵当日にご主人に来院していただき、1回目の精子の状態が不良な場合には再度採精していただくことがあります。2回目の方が運動性やDNAの状態が良好な精子が得られることもあるためです。

◆体外受精(IVF)における禁欲期間
体外受精(いわゆる「ふりかけ法」)では、卵子の周囲にふりかけた精子が、自力で卵子の殻(透明帯)を突破して受精する必要があります。そのため、ある程度の数の元気に動く精子が必要です。これは、1個の精子を直接卵子に注入するICSIとは異なる点です。体外受精における禁欲期間については、明確なガイドラインは現時点でありません。というのも、禁欲期間を体外受精単独で検討した研究が少なく、多くの論文がICSIとまとめて解析しているためです。さらに、研究によって評価方法や対象が異なるため、結果に一貫性がないのも理由の一つです。ただし、いくつかの研究では、体外受精の場合も、1〜3日程度の短い禁欲期間の方が、受精率や胚の発育状態が良い可能性が示唆されています。これらを踏まえ、私の個人的な意見としては、どちらかというと体外受精をご希望の方には、2~3日程度の禁欲期間が適切だと考えています。もともと精子の数や動きがあまり良くない場合、禁欲期間が短すぎると精子の数が不十分で、体外受精では受精に至らず、顕微授精への切り替えとなる可能性が高まるからです。

 

*個人的な意見ですが、採卵の直前だけでなく、少し前の時期から定期的に射精(マスターベーション)をされた方がよろしいかと考えます。

*精液所見や治療の状況により、妊娠に向けた最適な禁欲期間は異なる可能性があります。主治医の先生に御相談されて下さい。

 

◆References

  • Borges, E., Braga, D. P. A. F., Zanetti, B. F., Iaconelli, A., & Setti, A. S. (2019). Revisiting the impact of ejaculatory abstinence on semen quality and intracytoplasmic sperm injection outcomes. Andrology, 7(2), 213–219. https://doi.org/10.1111/andr.12572

  • Sørensen, F., Melsen, L. M., Fedder, J., & Soltanizadeh, S. (2023). The influence of male ejaculatory abstinence time on pregnancy rate, live birth rate and DNA fragmentation: A systematic review. Journal of Clinical Medicine, 12(6), 2219. https://doi.org/10.3390/jcm12062219

  • Barbagallo, F., Cannarella, R., Crafa, A., La Vignera, S., Condorelli, R. A., Manna, C., & Calogero, A. E. (2023). The impact of a very short abstinence period on assisted reproductive technique outcomes: A systematic review and meta-analysis. Antioxidants, 12(3), 752. https://doi.org/10.3390/antiox12030752

  • Li, J., Shi, Q., Li, X., Guo, J., Zhang, L., Quan, Y., Ma, M., & Yang, Y. (2020). The effect of male sexual abstinence periods on the clinical outcomes of fresh embryo transfer cycles following assisted reproductive technology: A meta-analysis. American Journal of Men's Health, 14(4), 1557988320933758. https://doi.org/10.1177/1557988320933758

  • Gupta, S., Kumar Gupta, R., Yadav, S., Singh, V. J., & Srivastava, A. (2022). Abstinence duration in conventional IVF: No significant difference in fertilization or pregnancy between ≤1, 2–5, and 6–7 day abstinence groups. Fertility Science and Research, 9(1), 38–45. https://doi.org/10.4103/fsr.fsr_44_21

 

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME