胚移植後に飛行機に乗っても大丈夫?
胚移植後に飛行機に乗っても大丈夫?
仕事と不妊治療を両立されている患者さんは多くいらっしゃいます。遠方からいらっしゃる患者さんもいらっしゃいます。そういった御事情で胚移植をした後に飛行機に乗っていいかとのご質問を頂くことが時々あります。2025年の論文(Does flying after embryo transfer impact implantation? JBRA Assisted Reproduction2025)を御紹介いたします。
研究の目的
体外受精のために遠方のクリニックを受診し、治療後に飛行機で帰宅する「医療ツーリズム」が増えています。その中で「胚移植後に飛行機に乗ると妊娠に悪影響はないか?」という疑問を持つ方が多くいます。本研究は、その点を科学的に検討したものです。
研究の概要
- 実施国・施設:ブラジル・サンパウロの不妊治療専門クリニック
- 対象:2019年1月~2022年3月に行われた 2,135件の胚移植
- 方法:
- クリニックから400km以上離れて住んでいる患者さんを「飛行機利用の可能性が高い群」として分類(383件)
- 近隣在住で飛行機利用のない群(1,752件)と比較
- 評価項目:妊娠率、着床率、流産率
主な結果
- 妊娠率:飛行機なし 61.9% vs 飛行機あり 62.1%(差なし)
- 着床率:飛行機なし34.6% vs 飛行機あり38.7%(差なし)
- 流産率:飛行機なし28.5% vs 飛行機あり32.5%(差なし)
- 単一胚移植や良好胚のみの解析でも有意差はありませんでした。
➡ 飛行機で移動しても、妊娠率や着床率、流産率に悪影響は認められませんでした。
背景にあるリスクについて
- 気圧・酸素:飛行機内は標高1,500〜2,400m相当の気圧に保たれ、健康な人では安全とされています。
- 放射線:10時間のフライトでの放射線被ばく量は0.05mGyであり、胸部X線検査の半分以下、CTスキャンより大幅に低いと述べられています。
- 保安検査:空港のスキャナーは「低エネルギー、低強度の電離放射線を使用しており、皮膚を透過しない」とされています。
- 妊婦の飛行:米国産科婦人科学会(ACOG)は「妊婦が飛行機に乗ってもリスクは大きく増えない」と明言しています。
注意しておきたいこの論文の限界
- 著者らは本当に飛行したか・いつ乗ったか・フライトの条件等を確認していません。
- 後ろ向き研究であること→今後、前向き研究が必要です
結論
「胚移植後に飛行機で移動しても妊娠率や着床率は下がらない」 という結果が示されています。
個人的感想
もちろん「本当に飛行したかどうか」など未確認部分があるため、この論文だけで結論を断定はできません。 しかし、移植後に飛行機に乗ることを一定の症例数で調べた報告はほとんどなく、参考にできる研究です。 患者さんにとって「飛行機に乗ったから失敗するのでは…」という過剰な不安を和らげる意味では、意義があると思います。
新鮮胚移植してOHSSのリスクがある場合は主治医の先生に必ず御相談されて下さい。
参考文献
Dias, J. A., Izzo, C. R., Fassolas, G., Henrique, L. F., & Wajman, D. S. (2025). Does flying after embryo transfer impact implantation? JBRA Assisted Reproduction, 29(1), e20250005.PMID: 40440475 DOI: 10.5935/1518-0557.20250005
